FIFAワールドカップ

 世界最大のスポーツの祭典、サッカーのFIFAワールドカップがブラジルで開催中です。大のサッカーファンである筆者も、地球の裏側での熱戦を寝不足になりながらも連日楽しんでいます。

 ただ、ご存知の通りザッケローニ監督率いる我らが日本代表チームは一次リーグ敗退となりました。
 今回は、Jリーグ創設以前からのオールドファン(三浦カズ選手が華々しく帰国したばかりの頃、高校のグラウンドで一所懸命彼の「またぎフェイント」を真似してました……と言うと年代がバレますが:笑)として、そして現在も母校でサッカー部のフィジカルコーチをさせて頂く、草の根レベルでの日本サッカー関係者(?)として、個人的な所感を述べてみたいと思います。

1.【日本代表の戦いぶりについて】
 監督の采配や戦術論については、その方面の専門家ではないので特に記しません。分不相応な程の潤沢な資金を有し、我が国のサッカーについて最も詳しく、最も世界に近い代表強化プランを持っている(はずの)日本サッカー協会が選んだ監督ですし、主役である選手たちとの信頼関係も報道で知る限りは上々のようでしたから。グループリーグ敗退という結果はその彼ら自身が語る通り、単純に今の日本サッカーの実力がそれくらい、すなわち「ガチンコ勝負だとアフリカや南米の強豪国には完敗、ヨーロッパの中堅くらいの国とも相手が十人でも引き分け、しかしアジア相手ならばW杯出場枠の上位4.5カ国には毎回のように入れる程度」の強さだったということに尽きると思います。
 日本サッカーはまだまだ幼く、単純に「弱かった」ということです。

2.【敗戦から学ぶべきこと】
 戦った選手、監督、スタッフの人たちが責任を感じるのは当然ですが、彼らだけにそれを押し付けるのは間違いです。自分たちの実力を見誤り、グループリーグを突破するのが順当な結果であるかのように勘違いしてしまった我々サポーター、そしそのミスリードを招いたマスコミと彼らの暴走を抑えようともしなかった日本サッカー協会にもまた、大きな責任と原因があると思います。

 考えてもみて下さい。この国では街を歩けば、ネットを開けば、所属クラブで出番のない選手のポスターやCMを目にすることの方が、メッシやロナウドのそれを見かけるよりも遥かに多いのです。テレビをつければ相手がブラジルでもイタリアでも、それが親善試合に過ぎなくても『絶対に負けられない戦い』にされてしまうのです。挙句の果てには、スタジアムに足を運んだこともないようなアイドルや芸人が「応援団長」や「スペシャルレポーター」になって何の根拠も愛情もない試合予想やコメントを垂れ流し、頭の弱い者たちが渋谷の交差点で痴漢行為まで働く始末。はっきり言って、今の日本のサッカー文化は異常です。
 マスコミが、サッカー協会が、我々ファンが本当に日本のサッカー文化を愛し、発展させていこうとするならば、こうした歪んだサポート体制を正直に見つめ、正していくべきです。

 例えば、解説者が「本田選手は相変わらずプレースピード、シンキングスピードの遅さがセリエでは致命的ですね。残念ながらカカやターラブトらとのポジション争いには敗れています。ただ、左足のキックはまだ錆び付いていないはずなので、自分のキャラクターを見つめ直して再起を計って欲しい。現状、○○クラブならば出番もあると思いますから移籍するのも手ではないでしょうか」とテレビ局やスポンサーに気兼ねなく言える環境。

 例えば、単なる親善試合を『絶対に負けられない戦い』などとマスゴミが煽りそうになった時に「いやいや、単なる毎年恒例のキリンカップですから。今回は国内の若手主体で行きます。絶対に負けられないのはワールドカップ予選のホームゲームなので、それに備えたテストマッチだとしっかり報道して下さい。それから、出演者に関してはサッカーを愛していることはもちろん、それ相応、即ちインターナショナルマッチの観戦経験や解説経験のある方でお願いします」と歯止めをかけられる協会。

 例えば、内田選手について「ウッチーがイケメンだから好きです」ではなく、「決して体格には恵まれていないのに、スピードと献身性を武器にシャルケでもう何年もレギュラーを張っていて、CLの常連選手になっているところが凄いし好きです」と言えるような女性ファンが一人でも増えること。  

 日本人選手の体格を急に大きくしたり、突然足を速くすることは無理ですが、彼らを支える環境をこうして正しい方向へと修正する努力は、すぐにでも取り組めるはずです。
 繰り返しますが、日本のサッカーはまだまだ未成熟で、幼いのです。代表チームもアジアでは強豪だけど、世界では弱いのです。

でも。  

 十年前、二十年前はもっと幼く、弱かった。代表チームのユニフォーム(赤い時期もありました)は大手各社が持ち回りで提供し、国際Aマッチ前夜の食事がカップラーメンなんてこともあった。そんな中、サッカーを愛してやまない人々が夢物語と言われたプロリーグを作り、世界中から生きたお手本を招聘し、才能ある若者を逆に世界へ送り出し、他国から驚かれるほどの長足の進歩を遂げてここまで辿り着いたこともまた、事実です。今回の大会を機に、その初心を思い出しましょう。  

 幼く、か弱い日本のサッカーが再び健全に成長出来るのか、ここから益々勘違いして“グレて”しまうのか。一サッカーファンとして、草の根レベルの関係者として、未来が前者となることを心より願ってやみません。