誰がフィットネスを殺すのか ②

前回のコラムでは、「残念ながら日本のフィットネスクラブは、トレーナーとは名ばかりの、素人のアルバイトばかり」ということを、あらためてお伝えしました。

 後編の今回は、どうしてそうなってしまったのか、何が原因で、誰の責任で、そんな悲しい現実へと舵を切ってしまったのかを、この業界の歴史とともに振り返ってみたいと思います。

【総合型フィットネスクラブの誕生】 

現在でもお馴染みの総合型フィットネスクラブが我が国に定着したのは、1980年代からです。1964年の東京オリンピック以来増加していたスイミングスクールに、当時のエアロビクスブームに乗じてスタジオを、さらにはジムも併設して、ジム・スタジオ・プールという、いわゆる「三種の神器」を備えたクラブがバブル景気の助けもあって、あっという間に増えていきました。多いときには、全国で年間200を超えるクラブがオープンしていたとか。
 当然スタッフも今より充実しており、当時を知る先輩トレーナーの一人は、「そういえば、あの頃僕がいたジムは全員社員トレーナーだったなあ。みんなよく勉強して、自分のトレーニングもしっかりやって、なかなか楽しい時代でしたよ」とおっしゃっていました。

【バブル崩壊~犯した“罪”】

 そんな時代も、90年代に入ってバブル経済が崩壊するとすぐに終焉を迎えます。そして、景気の落ち込みによる会員数(=売り上げ)の減少に対して、各クラブが取った手段のひとつが、人件費の削減でした。それは、しかたのないことかもしれません。ただ、理解できないのはそこで、「トレーナーがいないのに、トレーナーが必要なサービスをそのまま残した」ことです。  

 ジムのスタッフが素人のアルバイトばかりになってしまうのならば、正直に、「うちのジムは単なる場所貸しです。スタッフは素人なのでトレーニングは教えられませんし、事故が起こっても自己責任でお願いします。そのかわり、会費がこれだけ安くなっています」とでも、正直に言えばいい。もしくは、ジムを潰してもとのスイミングスクール一本に戻せばいい。社員トレーナーが一人しかいないのならば、その人が対応できる範囲のパーソナルトレーニングやグループトレーニングのみ、受け付ければいい。
 にもかかわらず、「ジムではトレーナーのアドバイスを受けられます」、「お客様のお身体をしっかりサポートいたします」などと誇張もはなはだしい売り文句を恥ずかしげもなく垂れ流し、それを続けてきた結果が現在のフィットネスクラブです。医者がいなくなったのに、病院をそのまま残しているようなものです。   

 もうお分かりのとおり、この“罪”の責任は、当時そうした運営方針を主導した人々にあります。どこぞの部長さんかもしれないし、どこかの支配人さんかもしれない。ひょっとしたら、社長さん自らかもしれない。でも、どんなに偉い肩書きを持っていても、自らがジムでトレーニングし、トレーナーという存在に触れ、フィットネスの現場を愛しているのなら、こんな大きな“罪”を犯すわけがなかっただろうと思います。ジムからトレーナーをなくして、お客様から本当のトレーニングを取り上げたのは、こうしたフィットネスを金儲けの手段にしか考えていないような人たちなのです。

 恥ずかしながら、筆者がアルバイトとして修行をはじめたのも、その90年代以降のフィットネスクラブでした。しかしながら、「NSCAの資格を取るために勉強しています。アシスタントさせてください」と正直に伝え、最初はジムの掃除やゴルフエリアの球拾いしか行ないませんでした。はじめてお客様にベンチプレスの補助を頼まれたときなど、緊張するとともにとても嬉しかったことを今でも覚えています。そんな自分からすると、ヒトの身体に詳しく、さまざまなエクササイズを指導し、自らも研鑽を欠かさないパーソナルトレーナーさんや、知り合いのアスレティックトレーナーさんは憧れの存在でした。「なんでうちのクラブは、こういう人たちが社員でいないんだろう? ジムって、こういう人たちがたくさんいるものだと思っていたんだけど……」と、何も知らない身で首をかしげていたものです。

 それでも、希望はあります。  

 トレーナーという職業が少しずつ認知度を上げ(といってもまだまだですが)、それを目指す若者たちも増えてきた昨今、罪深い人たちの負の遺産がはびこるなか、少しでも会員さんのそばにいよう、本物のトレーニングを提供しよう、と現場で地道な努力を続ける仲間が最近は増えているようにも感じています。

 中堅世代の一人として、彼ら、彼女らとともにジムをトレーナーの手に取り戻す。そして、本当のフィットネスをお客様のもとへ届けなおす。業界の一員として願ってやまない、この当たり前の風景を再現するミッションに、筆者も引き続き、微力ながら取り組み続けます。もう二度と、“罪”が犯されることのないように……。  

 そんなわけで(?)、今後ともF Fitness Supportをよろしくお願いいたします。