フィットネスクラブの本当にえらい人はジムに足を踏み入れる

 今回はラノベ風のタイトルにしてみました(笑)。しかしながら、内容はいたって真面目ですのでご安心を。

 『パートタイム労働法』という法律があるのをご存知でしょうか。正式には『短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律』という名称で、

―パートタイム労働者(アルバイト)の就業の実態を考慮して雇用管理の改善に関する措置を講ずることにより、通常の労働者との均等・均衡待遇の確保を推進することを目指す― (厚生労働省『パートタイム法の概要』より)

ための法律です。

 現行のものは2008年から施行されていますが、さらに改正されたものが今年の4月1日から施行されるそうで、たとえば教育訓練に関する第10条の部分は、

―正社員と職務が同じ場合は、正社員に行う職務の遂行に必要な教育訓練について、既に必要な能力を有している場合を除き職務が同じパート労働者にも行うことが義務化されます。―

とのことです。

 パートタイム労働者(=アルバイト)の問題といえば、このコラムでも毎回のように言っていますが、我々フィットネス業界にも当てはまります。フィットネスクラブのジムやプールを見回すと、上記にもある「正社員と職務が同じ」アルバイトばかりであり、彼ら・彼女らがいなければ施設そのものが立ち行かないのが実状です(もしどこかの牛丼屋のように、大量のアルバイトが一気に辞めていったらどうなるんだろう、とゾッとします)。

 しかもタチの悪いことに、いなければ成り立たない割には、その教育レベルがお粗末なクラブばかりです。社員と同じようにお客様をアテンドし、トレーニングを指導し、ときには機器のメンテナンスなどもする、言ってしまえばかなり高度な専門職にもかかわらず、教わっていることと言えば、

・挨拶(これすら満足にできない人もたまにいますが)
・掃除
・マシンのシート調節のしかた、トレッドミルのクイックスタートのしかた

程度の人がほとんどなのです。「社員と同じ職務には、同じ訓練を受けるのが義務」と法律にも明示されるのに、守られていないのです。そして何も知らない会員さんは、そんな人たちに身体づくりの方法を聞かなければならないのです。残念なことです。

 しかし、こうなってしまう一番の責任は本人ではなく、その教育を施す側の社員、もっと言えばクラブ全体に責任を負う支配人や、さらにその上の運営本部の人々にこそあると思います。

 考えてもみてください。そうしたエラい人たちがおよそまともな感覚ならば、自分たちの“商品”である健康や運動に関するサービスがどの程度のものか、必ずジムやプールに足を運んでチェックするでしょう。そもそも自身もしっかりトレーニングしているはずです。また、そうやってジムやプールに通ったことがある身ならば、トレーニング指導はおろか、CPR/AEDの講習ひとつ受けたことのないアルバイトを現場に立たせることがどれほど危険で、そして、どれほどお客さんを裏切っているのか一発でわかることでしょう。

 が、残念ながら私は多くのクラブで、支配人さんやマネージャーさんと呼ばれる人を、ジムやプールで見たことがありません。  

 それでいいのですか? 

 用もないのにうろつくのは考えものですが、自分もジムでトレーニングをすれば、会員さんとコミュニケーションを取れるでしょう? スタッフやインストラクターからスタジオの利用状況を直に聞くことだってできるでしょう?   

 本社の人たちだって同じです。
 「日本のフィットネス参加率が3%程度で~」と嘆くだけなら子供にだってできます。じゃあ、どうして自分の会社もその片棒を担いでしまっているのか、自社のクラブはどんな雰囲気なのか、会員さんと一緒に汗を流して現場を見たことがありますか? 自分のところのトレーナーさんから指導を受けたことがありますか? まさか、フィットネス業界の人間なのにお腹の出た体型でタバコを吸いながら偉そうにしている……なんてことはありませんよね? 

 もう、嘘をつくのはやめましょうよ。
 ブラック企業の真似事は、終わりにしましょうよ。

 高齢化社会が進むかたわら、首都でオリンピックも開催される国に私たちは住んでいるのです。スポーツの専門家、フィットネスの専門家への需要はますます高まっているのです。それに応えられる業界でいましょうよ。ね?
少なくとも、我々トレーナーと呼ばれる人種はそのために協力する姿勢は持ち続けていますし、こうやって小さな声もあげ続けています。

 いつかどこかのクラブで、「こんにちは! ここの支配人の○○です。ちょっとジムにお邪魔してトレーニングさせてもらってます!」なんていう人に出会える日を、私はこれからもずっと待っています。