胸を張れ、アルバイト。恥を知れ、偉い人。

 お久しぶりです。

 またしても長いことコラムを更新しませんでしたが、日本のスポーツ界、フィットネス界のブラック業界っぷりをはかなんで世捨て人になっていた……わけではありませんのでご安心を(笑)。

 とはいえ今回のコラムも、そのブラックな現場の実態について書かせて頂きます。

 仕事でスポーツ用品店やフィットネスクラブさんにお邪魔することも多いのですが、そこで窓口になってくださるのは大体、「チーフ」や「キャプテン」と呼ばれるその部門のリーダーの方々です。具体的には、サプリメント売り場だったりトレーニングジムの主任さんです。

 で、ここからが問題というか嘆かわしいところなのですが、最近ではこうした方々の多くがなぜかアルバイトだということです。
 素人のアルバイトなんぞが窓口じゃお話にならないよ、というのではありません。その逆です。応対も丁寧で、コンディションづくりの知識もある。その上で、専門家であるトレーナーからさらに知識を吸収しよう、お客様の役に立つ情報を教えてもらおう、という意欲もあるのでこちらとしてはてっきり社員さんだと思っていたら、「実は僕、アルバイトなんですよ」と聞かされて驚かされるのです。要するに、これだけ仕事が出来て熱心に勉強もしてる人を、アルバイトの立場でいいようにこき使っているのか!? ということです。

 この業界に入ったときから、私は不思議でしかたがありませんでした。たとえばフィットネスクラブで、どう見てもお客さんから人気があって指導も上手なスタッフが時給九百円なのに、何をしているかわからない(大抵は何もしていない)、しかもお腹が出て煙草を吸っている人すらいる社員が、どうして三十万、四十万の月給をもらえているのだろう、と。

 アルバイトの賃金が安いのは何故か? それは、「誰でも出来て、かついざというときには責任を取らなくていい、一兵卒のような仕事」だからです。逆に社員が高い給料をもらえるのは何故か? 「その人じゃなければ出来ない仕事があって、責任を取る立場、周囲を監督したりリードしたりする立場」だからのはずです。そのプレッシャーや仕事の難易度の対価として、それなりの賃金をもらえるのです。

 ところが、多くのスポーツ用品店やフィットネスクラブ(飲食店などもそうですが)では、アルバイトなのに「その人じゃなければできない仕事」を抱えさせられたり、「周囲を監督する立場」に据えられたりしている人が本当に多いと感じます。もちろん、それはその人が優秀だからでしょう。にもかかわらず、それに見合う対価が払われていない。チーフ手当、キャプテン手当がつきますといっても時給が数百円プラスされるとかその程度で、その上、週五日勤務がほぼ当たり前だったりするのです。知らない人が見たら、社員だと勘違いされても当然です。

 だったら、「チーフトレーナーに昇格すれば時給二千円になります」、「キャプテン手当てとして日当一万円がつきます」ぐらいしてあげればいいのに、と本気で思います。お客様にスポーツやフィットネスの楽しさを提供する仕事なのに、ぶよぶよの身体で煙草を吸っている人たち、何よりもそういった、言わば“搾取”をしても恥と思わない偉い人たちの給料を二十万円ずつぐらいカットすれば、そんな財源簡単に確保できるはずです。

 試しに、どこかのフィットネスクラブで「社長や役員、マネージャーが接客や指導をして、逆にアルバイトがスタッフの給与計算やメーカーとの商談をする」という一日を実験してみてはどうでしょう。接客現場は大混乱だろうけど、事務方のほうは意外に問題なく回ってしまうのではないでしょうか。外部からお邪魔する身としては、それぐらいおかしな現状になっていると感じます。

 世の中の頑張っていて、しかも能力のあるアルバイトさんたち。胸を張ってください。あなたたちがいなければ、潰れるお店やクラブだらけです。あなたたちの中には、倍以上の賃金をもらっても足りないぐらいの人もいるはずです。そういう人は、どこに行っても通用します。

 逆に、そういう人々に相応しい対価・待遇すら用意できない経営者、責任者の方々。あなたたちこそ、その責を負うべきです。どう見ても自分のクラブ、自分のお店になくてはならない人材なのに、たった千円程度の時給で彼らを搾取している現状から目をそらさないでください。自身の給与に相応しい仕事ができていないなら、少なくともお腹の出た身体で煙草を吸っているような身なら、自分こそが時給九百円で汗を流すべきです。恥を知ってください。

 いつかどこかのお店やクラブで、「伊藤さん、僕、社員と同じ待遇になりました!」と言ってくれる主任さんに再会できる日を願いつつ、彼ら・彼女らにトレーニングのこと、スポーツ科学のことをレクチャーさせて頂く昨今です。